山下:僕は最初に「NEW WORLD MUSIC」を聴いたんですけど、“新しいものを作ろうとしてるんだろうな”って感じたことを覚えています。「笑ってたいんだ」は、いわゆる“ポップミュージックの王道に真っ向から挑んでるな”って思いました。そういう意味では対照的な2曲だと思います。 |
――まず「笑ってたいんだ」ですが、山下さんが言うとおり王道なポップナンバーですね。
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水野:この曲は、日産セレナのCMソングとして書き下ろした楽曲で、CMでは子供たちがたくさん出てるんですけど、子供たちの明るく元気なイメージと未来に向かって歩いていくイメージを持って曲を作りました。 |
――タイトルの「笑ってたいんだ」はとても目を引きますよね。たとえば「smile」とかは別の候補はなかったんですか?
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水野:実はタイトルは凄く悩んで、マスタリングの日にこのタイトルに決まったんです。何に悩んだかっていうと、やっぱり震災後という時期が時期だったので。 |
――では、震災があった頃に歌詞を書いたんですね?
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水野:震災の前にメロディーを作り始めて、歌詞を書く段階で震災が起こったので、どういうことを書けばいいのかを凄く考えてしまったんです。今まで普通に使っていた言葉が急に意味が変わってしまって、違う重みを持ってしまった。真正面からポップソングを作ろうと思っていたんですけど、ニュース映像を見たり被災地の方の話を聞く度に、どうしてもそっちに寄ってしまうというか、そこで迷いながら書いていったんです。 |
――そんな中、最終的に「笑ってたいんだ」に決めた要因はなんだったんですか?
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水野:「笑っていたい」とか「smile」とか他に候補もあったんですけど、やっぱり現実と真正面から向き合った時に、僕自身“笑ってたいんだ”って思ったんです。その思いを突き通した結果、サビをそのまま使った方がいいと思って、このタイトルにしました。 |
――歌詞に「笑ってたいんだ」「見つめてたいんだ」「あきらめないんだ」など、自分に言い聞かせるような歌詞が多くあるのも、そういう背景があったからなんですね。
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水野:そうですね。客観的に作ろうと思っても、目の前で起こってる事だったので、そこからは抜け出せなかったんだと思います。「笑ってくれ」とは言えないけど、「笑ってたいんだ」っていう意思表示をすることくらいは出来ると思ったんです。 |
――「一歩」「未来」など希望をイメージさせる言葉も随所に使われていますね。
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水野:そこまで強く意識はしたわけではないんですけど、実はこれまでの作品でも「未来」という言葉は多く使っているんです。まわりから“前向きな歌詞を”ってデビュー当時からよく言われていたので。それは今でもいきものがかりでやる上では、意識してしまうことですね。 |
――「笑ってたいんだ」はメロディーの動きが多いので、歌うのは難しいんじゃないですか?
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吉岡:そうですね。聴いてると凄く爽やかな印象なんですけど、とても重量感のある曲なんです。この曲は、リーダーが作ってきた2つの曲のいいところを組み合わせて作った曲なので、色んな要素が凝縮されているんです。急に上がったり下がったりする癖のあるメロディーも、亀田誠治さんのアレンジで爽やかに聴こえるから不思議なんですよね。 |
吉岡:具体的に“どういう風に盛り上がってくれるか”っていう姿がはっきり見えてるわけじゃないんですけど、レコーディングした時に、“ライブで絶対盛り上がる”って思いました。今はライブでやった時にどういう風な動きをしようか考えてるんですけど、今までいきものがかりを好きでいてくれた人にとっても新鮮なノリになると思うので、みんなのリアクションが楽しみですね。 |
――歌詞についてお聞きしたいんですけど、たとえば感性と書いて“こころ”とか、尊厳と書いて“ほこり”と歌っていますが、水野さんはよくこういう手法を取られますよね。
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水野:そうですね。デビューシングル「SAKURA」の時にやってから、この手法を使うようになったんです。“歌詞はただ音で聴くだけじゃなくて、裏の意味であったり、比喩があったりした方が面白い”という思いと、“こういう意味を乗っけたいんだけど、字数が足りない”っていう時に使うこともあるんです。やっぱり“ひかり”“ほこり”とか音の雰囲気が似ているものを同じ場面で使いたいっていう思いは、どうしても作り手としてはあるんですよ。あとは全体のバランスを見て、最後にひらがなにしたり、カッコ括りにしたり、カタカナにしてみたりもしますね。 |
――歌い手としては、歌詞の表記が変わることでイメージや歌い方が変わったりするんですか?
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吉岡:最終的には響きとして歌うので、たとえばライブやる前とか、改めて歌詞を読み直したりすると、“あ、そっか”って意味が広がることはありますね。“目に見て楽しい”っていうのはありますし、深みにはなってると思います。 |
――「NEW WORLD MUSIC」はどんなシーンで聴いてほしいですか?
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山下:震災が起きてから色々考えてたんですけど、いきものがかりの曲を聴いて、純粋に“いいな”って思ってほしいし、こういう時代ですけど、被災地でも、それ以外の地域の方にも分け隔たりなく聴いてもらえたらなと思います。 |
吉岡:毎朝流れてる曲って、大人になってもそれを聴くと“あの時期ってああだったな”って思うと思うんですよ。記憶を呼び起こしたり、気持ちに重なったり、それぞれのリンクする部分と重ね合わせて聴いてもらえたら、曲が幸せな形になるんじゃないかなって思います。 |
水野:聴いてくれた方のそれぞれの状況に応じて受け取っていただければいいですね。たとえば“今年初めて大学に入りました”とか、逆に“特に特別な年じゃないです”っていう人もいると思うんですけど、それぞれの状況で自分に引き寄せて聴いていただけたらと思います。 |