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3曲目の「猿みたいにキスをする」はスタジオライブ音源ですね。これまでのシングルでも時々スタジオライブ音源を収録されていますが、そうしようと思ったきっかけは何だったんですか? |
秦 |
カップリングでは、過去のアルバムの曲や自分のルーツとも言える楽曲に光を当てたいという気持ちや、あとは、スタジオでライブ形式で録ることへの挑戦といった目的があったりするんですね。始めの頃は、演奏の差し替えを一切しないという一発録りに緊張感を持ちながらやっていたんですけど、最近は経験値も増えてきたので、ライブセッションを楽しもうという気持ちのほうが強くなってきた気がします。それでも今回でいうと“どういうニュアンスでピアノが来るのか”など、実際一緒に音を出すミュージシャンの方とのせめぎ合いの中で生まれる緊張感もものすごくあって、そんな生ならではのグルーブを音源から感じてもらえるとうれしいなと思います。 |
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他のアーティストさんは、よくライブ音源を収録していることは多々ありますが、スタジオライブ音源はあまりないですよね? |
秦 |
そうですね。スタジオライブはクリアで整理された音環境で演奏出来るので、レコーディングとライブの中間にあるようなものなんです。だから、通常のレコーディングの時や実際にライブで歌う時にも凄く役に立つんですよ。 |
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その中で「猿みたいにキスをする」を選んだ理由は何だったんですか? |
秦 |
この曲は、「Documentary」に収録されている曲なんですけど、かせきさいだぁさんのラップを入れたり、今まで自分の音源でやっていなかったことに挑戦した曲だったんです。今回は、アコギを弾きながら曲の原型を作った時の空気感により近いもので聴いてほしいと思ったので、ピアノとマンドリンとのセッションでやりました。 |
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歌詞では“今が全て”という10代の感情が切なく描かれていますが、今回のアレンジでより伝わる作品に仕上がっていますね。 |
秦 |
そうですね。この曲は、10代ではない主人公が俯瞰で歌っているようなところがポイントなんです。きっと“今が全て”と思っている人はこういう風に思わないと思うんです。距離感がこのアレンジでは濃くなったような気がしますね。 |
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普段、どのような流れで曲作りをされているんですか? |
秦 |
たとえば前シングルの「メトロ・フィルム」のように詞を先に書くこともあるんですけど、メロディーが先に浮かぶことのほうが多いです。 |
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詞を書く上で大切にしていることは何ですか? |
秦 |
“温度感や映像がどうやったら伝わるか”っていうことは大事にしているので、なるべくシンプルに聴いてる人にイメージしてもらいやすい言葉を選ぶようにしてます。あとは、自分の感覚を大事に突き詰めていくことですかね。 |
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歌詞が出来やすい場所や時間帯はありますか? |
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普段曲を聴く時、歌詞は重視されていますか? |
秦 |
歌詞だけ読んでどうこうっていうのはないです。音楽に乗っている言葉っていうのが一番重要で、歌ってみたり聴いてみたときに引っかかる言葉があるかどうか、それがあるアーティストの音楽が好きですね。 |
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歌詞の面で影響を受けたアーティストは? |
秦 |
キリンジさんとaikoさんとかですね。キリンジさんは情景の切り取り方が独特なんですけど、すごく伝わってくるものがあって、言葉の選び方が素晴らしいと思いますね。aikoさんは、情景が見えるし、遥か遠いところにあるはずなんだけど、何故か女の子の気持ちが伝わってくるところが凄いと思います(笑)。 |
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言葉の情報源は主に何ですか? |
秦 |
本や小説、映画や漫画など、色んなものから得ていると思います。もちろん実体験もそうですけど、それらが曲のイメージと結びついた時、歌詞になる感じです。 |
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たとえば、漫画からはどういう影響を受けるんですか? |
秦 |
空気感ですね。映画もそうなんですけど、“このシーンにどういう音楽が流れているのか”をイメージしたり、ひとつのセリフからインスパイアされたりしたことが曲や歌詞につながっている気がします。本や小説の場合は、たとえば村上春樹さんの本を読めば、透明感があったり、切ない気持になったりする。そこがすごく重要で、物語の内容よりは“何で切なく感じたんだろう?”っていうことを細かく突き詰めていくと曲になっていくんです。 |
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秦さんはアコースティックギターと伸びのあるヴォーカルというイメージがありますが、ご自身では一番の武器は何だと思っていますか? |
秦 |
歌声がいいって言っていただけることが多いので、それは嬉しいですけど。僕が音楽をやっていく上ですごく重要だと思っていることは、“シンガーソングライター”であることなんです。自分で書いた詞と曲を自分で歌う、そうじゃないと自分の音楽じゃないと思っているので。 |
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今年の11月でデビュー5周年を迎えられますが、今後挑戦してみたいことはありますか? |
秦 |
デビューする前から、音楽をずっと続けていくことを唯一の目標としていたので、5年という区切りは迎えますけど、自分の目標はその先にあるので、ひとつ前の曲よりもっといい曲を作ることの積み重ねしかないと今は思っています。 |
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それでは、最後に「歌ネット」を見ている人にメッセージをください。 |
秦 |
苦しみながら作って出てきた言葉が歌詞になっているので、音楽を通して、その言葉がどう響くかをまず感じてもらって、またその後に歌詞を読んでみると、伝わり方が変わったり、言葉のリズムがより感じられたりするんじゃないかと思います。音楽を多面的に、色んな角度から楽しめる要素のひとつが歌詞だと思うので、そんな風に楽しんでもらえたらなと思います。 |